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けんか                               宇梶二美



 カメラを持ってさあ外に…と思っていると、テラスでさくら組の男の子達が大型ブロックでできた基地みたいな所にいるのが見えた。そこに別の子が、青いブロックばかりを集めた長い長い剣のようなものを持って自慢気にニコニコしながら嬉しそうに私の前を通った。私は「すごいねー!!」と声をかけた。

そして彼は基地にいる友達のところへ行き何やら話していた。写真を撮っておこうと思い、シャッターチャンスを待っていると、「それじゃあ、かたられんばい」「ダメばい」そういう言葉が聞こえてきた。かと思うと、それ以上のやりとりなしに、後から来た子が後ろを振り向き歩き始めた。作っていたものを振り回し壊しながら捨てて、涙をふきながらさくら組の方へと歩いて行った。

あまり気にしていないのか、気づいていないのか、3人は遊び続けていた。流石にほっておけなかった。「ねえ すごく悲しそうだったよ」と声をかけた。「だってあれじゃダメやん。こんなのばもってこんと」とみんなで言う。黄色のブロックのみを集めて作られた大きなものがおいてある。「そうなんだ。でも、とっても悲しそうだったから、ちょっと話した方がいいんじゃないかな。なんとかしないとね。このままじゃいけないよ。ちょっと行っておいでよ。」と言った。それは伝わったようだった。3人の中の1人が代表で、彼のところへ行った。

何が起きるかわからないから、そっと覗きに行ってみた。去って行った彼の手には黄色のブロックばかりを集めたもの。少し沈黙があり、やってきた子に手を出した。その子も黙っちゃいない。間違いなく傷がつくようなとっくみあいになるのは判る。すぐに間に入って食い止めた。すると彼はロッカーの相手の荷物を放り投げた。「そんなことしたらダメだ」と言っているすきに、その相手の子も同じ事をしようとしたので、「ちょっと待って」と身体を抱え強く引き止めた。そして、私は叫んだ。「お願い!!そんなことしないで!!○○君は、心配して話をしにきたんだよ。わかってよ!!」必死の想いで伝えた。彼はその行動を止めてどうしようもない怒りを噛み締めていた。相手の子は、彼の荷物を一つ放り投げて仲間の場所へ帰って行った。

そういえば、もも組の時にも、あったな、こんなこと。震えるくらい、悲しみと怒りでいっぱいの彼。「○○君、心配してきたんだよ」と言うと「わかってる」と泣きながら返ってきた。私は彼から少し離れてみた。しばらくして彼は、みんなのいる近くに行ったけれど、顔をうずめて泣いている。あの子たちは、「もうなんでもいいけん」と声をかけたらしいが、とても立ち上がれない彼の姿。

私は、最初の悲しくさせた言葉に対して謝った方がいいのじゃないかなと提案した。ちょっと説得した。そして3人は彼に「ごめんね」と謝った。結構「ごめんね」と言う事は勇気が必要に思えた。彼は、ずっとずっと泣き続けた。私は「後は○○君に任せよう。みんなの気持ちは伝えたから…ね。」と言った。

やがて3人はテラスから外へ移動していた。泣いていた彼は、ひとしきり泣くと、鼻水をプーンと拭いて、着替えた。それから、1人で、外へ出て、山の上に寝っころがって空を眺めていた。次に横たわっている木の上に寝て何やら考えている様子。そして、さっきの3人のうちの1人がいるブランコへ歩いて行き、隣のブランコにのって揺られた。

「着替えたあ?」

「うん!!」

何気ないさりげない会話。でも晴れ晴れとした会話。長い長い時間が流れていた。「けんかってすごい!!」「子ども達ってすごい!!」と思った。とってもいい気持ちだった。やっぱりこれだって思った。幼稚園ってこんなことを経験するところなんだよって思った。次の日、朝から、思い思いのプロックで作った物を手にして昨日の仲間達が遊んでいた。昨日より、もっと仲良くなっていた気がした。

今回の「けんか」での私の関わり方でよかったのかどうか、それは考える余地がたくさんあると思う。それはさておき、子ども達は、日々の積み重ねで、深い人間関係を学んでいく。人を許すということ。悪かったなと気づき、伝えるということ。決して簡単なことではない。これからずっと生きている間、続いていく人と人との関係。もう始まっている。 毎日続いている遊びだから、毎日続きのある仲間だから、その大切な学びの場があるんだと思う。間違いない!!
 この文章を眠らせている間の出来事。ある日、私はもも組の部屋で子ども達と遊んでいた。そこに外遊びを終えて帰って来た子がいたので、「おかえり 今ハムちゃんのお家作ってるよ。ここはクッキー屋さんなんだ。一緒にやる?」と話しかけた。なんだかすぐに返事がでてこない。私は???と思っていると、そこにお家を作っていた子がその子の近くにきた。すると返事をしなかった子が、「さっきはごめんね」とその子に話しかけた。「うん、私もごめんね」と返ってきた。そっか。外で何かあってたんだ。なるほどね。ちゃんと流れているんだね。いろいろ考えていたんだね。これぞ本物の「ごめんね」だよ。そして又別の日、朝から、もも組の子とひよこ組の子が出くわした。もも組の子が、ひよこ組の子を見るなり「昨日はごめんね。お家壊して…」と言った。なんかすごい!!と思った。嬉しかったなあ。だってその出来事から約18時間位経過しているんだもの。一晩寝て朝になって、忘れたりしていない。そして、気持ちよく悪かったなあって「ごめんね」って言えるんだから。こんな「今」の子ども達の日々なんだ。終わりはこない。続く…で終わろう。