さらに深く|保育者の見取りと専門性

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さらに深く

保育者の見取りと専門性

エンゲージメントという視点から、子どもの姿と保育者の関わりを考える。

砂場の温泉に片手を入れ、もう片方の手を砂の縁に添える子ども

エンゲージメントという言葉との出会い

きっかけは、保育者が残してくれた一枚の写真でした。友達と穴を掘っていた子が、一度遊びを離れ、砂場に戻ってくると、元の穴には加わらず、すぐ隣に自分の温泉をつくり始めていました。

片方の手は水の中に。もう片方の手は、丁寧につくられた縁にそっと。「なぜ、隣で始めたのだろう」。写真を一緒に見ながら、何をつくったかだけでなく、どんな手つきで、どのように活動に向き合っていたのかを考え始めました。

子どもの気持ちがわかったわけではありません。その姿を読み解こうとする中で、私たちは「エンゲージメント」という言葉に出会いました。その視点から捉え直すことで、保育についての考えがさらに深まってきました。

その経験は、年長組の子どもたちの姿と重なるように感じています。ティラノサウルスを作っていたとき、「上の歯、作っといて」というやりとりが生まれました。それをみんなに紹介し、「こういうのを『役割分担』って言うんだよ」と伝えました。

子どもたちには、新しい文化様式に出会ったように伝わったのかもしれません。「あれ(役割分担)、してみたよ」と、言葉の意味を自分たちで使い始めました。これまでにもしていたことに名前がつき、意識している姿が生まれたのです。

私たちも、言葉との出会いを通して、これまで見ていた子どもの姿や、自分たちの関わりを改めて考えています。

このページで読むこと

関わりを読み取る言葉 / 二つの視点 / 支え方を考える / 実践から考える

関わりを読み取る言葉

「取り組んでいる」の中にも、
さまざまな姿がある。

興味|何に心が動いているのか。

ある対象におもしろさや価値を感じ、関心が向くこと。興味は、出会いをきっかけに生まれ、繰り返し関わる経験や周囲の支えによって育つことがあります。 [1]

動機づけ|やってみたい気持ちは、どこから生まれる?

活動に向かい、続けていく力。「おもしろい」「もっと試したい」という気持ちや、実現したいこと、人との関わりなどが支えになります。

初めから目標がはっきりしているとは限りません。遊ぶ中で思いがけない出来事に出会い、新しい興味や「こうしてみたい」という思いが生まれることもあります。 [2]

エンゲージメント|どう関わっているのか。

実際の参加のしかたや、その質に目を向ける言葉です。行動だけでなく、感情や考え方にも注目します。活動の進め方や条件に、子どもたち自身が働きかける側面も研究されています。 [3・4]

インボルブメント|どれほど深く入り込んでいるのか。

集中や持続、探索、細部への注意、創造性などを手がかりに、活動への深い入り込みを捉えます。 [5]

これらは、順番に進む発達の段階ではありません。エンゲージメントとインボルブメントには重なりがあるようですが、研究上の焦点は異なるようです。

見取りを支える二つの視点

その子を見る。
その遊びのつながりを見る。

子どもと活動との関係

何に心が動き、どのように手を動かし、何を試しているのか。離れたり、戻ったりする姿にも目を向けます。

活動全体の文脈

友達、共同の目的、役割、時間、素材、道具、場所、これまでの経験。そのつながりが、今の遊びをどう支えているのかを考えます。

社会文化的な学習観や活動理論は、学びを人や道具、共同の活動との関係から捉えます。活動理論では、主体・対象・道具・共同体・ルール・分業などの関係に注目します。 [6・7]

二つの視点を行き来しながら、必要な支え方を判断する。この整理は、複数の研究を参考にした本園の整理です。

見取りから、支え方を考える

必要なときに支え、
自分たちで進める姿を支える。

遊びを始めることや、仲間を集めることが難しいときには、言葉をかけたり、一緒に考えたりする。

子どもたちが自分で声をかけ、相談し、進め始めたら、保育者は関わりを少しずつ減らしていく。

困ったときには、また支える。子どもの姿に合わせて、関わり方を変えていきます。

大切なのは、一律に活動を促すことではなく、その子が自分で考え、試し、判断できるように支えを調整することです。足場かけの研究では、理解や取り組み方に応じた支援、支援を徐々に減らすこと、子どもたちに任せていくことが重視されています。 [8・9]

環境構成と足場かけは密接に関わりますが、同じ意味ではありません。足場掛けは、子ども自身が展開の手ごたえを感じるような、油差しのようなものです。子どもの姿と、その後の変化を見ながら考え続けます。

保育者のアンテナを育てる

一枚の写真から、
問いが生まれる。

本園では、保育写真を見ながら子どもの姿を語り合うことを大切にしています。何が写っているか。直前には何があったか。普段はどのような遊びをしているか。

一枚から読み取れることに、前後の記録や同僚の視点を重ねます。「こう見える」という解釈と、実際に確かめられた出来事を分けることで、次に見たいこと、確かめたいことが見えてきます。

観察し、意味を考え、環境を見直し、再び子どもの姿を見る。その繰り返しの中で、保育者の見取りも深まっていくと考えています。

実践から考える

同じ「取り組む姿」でも、
支え方は変わる。

本園の記録をもとに、出来事、保育者の読み取り、判断を分けて紹介します。研究の概念は理解の手がかりとして用い、子どもの内面や変化の原因を一つに決めつけないようにしています。

線路づくり|年中組 — 素材と場所を変えると、遊びはどう動く?

記録にある出来事

新幹線が通る線路をつくろうと、保育者は細い灰色の紙と小さな机を用意しました。子どもたちはそこから離れ、新幹線をかっこよくする製作に戻ります。

保育者の読み取りと判断

紙が破れたり滑ったりすること、机が狭いことが関わっているのではないか。そう考え、段ボールの線路と、白い紙を敷いた二つの丸机を用意しました。机の間を空けるかどうかは子どもたちに確かめています。

その後と、見取りの焦点

線路づくりが始まり、友達も加わりました。机の隙間から橋づくりが生まれ、図鑑を見ながら線路の幅や石にも関心が向きます。新幹線への興味が続いていても、線路に取り組める条件は別に考える必要があった、と読める事例です。橋づくりを保育者が指示したわけではありません。

海賊船|年少組 — 「つくる」と「遊ぶ」をつなぐ場所。

記録にある出来事

海賊船に色を塗るため、広い場所へ移しました。塗る活動は楽しんだものの、その後、船づくりは止まります。写真や素材を用意しても、製作は再開しませんでした。

保育者の読み取りと判断

それまでの遊びを振り返ると、船をつくり、そこでごっこ遊びをし、必要なものをまたつくる流れがありました。場所を変えたことで、そのつながりが途切れたのではないか。保育者は船を元の場所へ戻しました。

その後と、見取りの焦点

ごっこ遊びが再開し、製作にもつながりました。広い場所は色を塗る活動には適していても、その後の遊びには別の条件が必要だったと考えられます。意欲の有無だけでなく、活動同士のつながりから環境を見直しています。

雛人形づくり|年長組 — 夢中な姿の、その先にある願い。

記録にある出来事

子どもたちは細部まで丁寧につくり、教え合い、手伝い合っていました。一方、ひな祭りが近づいても、残りの時間を意識して進める様子は見られませんでした。

保育者の読み取りと判断

期限を越えても丁寧につくりたいのか、それともひな祭りに間に合わせたいのか。保育者はまず子どもたちに確かめました。完成させたいという願いを確認し、残りの作業と時間が結びついていないのではないかと考え、二日前の朝に見える形で示しました。

その後と、見取りの焦点

子どもたちは作業を組み直し、終えた子が手伝い、完成に至りました。集中や協力が見られることと、共同の目的に向けて見通しを持つことは同じではありません。保育者が期限を優先する前に、子どもの願いを確かめた点が重要です。

砂場の温泉|年長組 — 離れたことは、意欲がなくなったこと?

記録にある出来事

みんなで掘る穴から離れた子が、戻ってくると隣に自分の「温泉」をつくり始めました。片手を水に入れ、もう一方の手で縁を丁寧に整えています。

写真から生まれた解釈

園長と保育者は、普段の丁寧なものづくりの姿も思い出しながら写真を見ました。勢いよく一緒に掘ることよりも、自分の手で細部を整えることに向かいたかったのかもしれない、と考えました。

残る問い

これは子どもが語った理由ではなく、写真と日頃の姿からの解釈です。関わり方を変えて遊びを続ける姿を、意欲の低下と決めつけずに見る。次の姿や本人の言葉から、さらに確かめていくための問いが残ります。

ドッジボール|年長組 — 自分たちで進めるために、支えを減らす。

記録にある出来事

コートやチームをつくり、人数や役割を調整しながら遊ぶ中で、保育者は「人数が足りないね、どうする?」と問いかけました。答えをそのまま渡すのではなく、子どもたちが考える場をつくっています。

保育者の判断と、その後

やがて子どもたち自身で時間や進め方を相談する姿が増え、保育者は関わりを減らしていきました。年下の子への役割の伝え方にも工夫が見られます。

見取りの焦点

必要なときに問いかけ、自分たちで進められるようになれば任せる。関わりの量を固定せず、子どもの姿に合わせて変えることが、足場かけを考える具体的な手がかりになります。

子どもの意欲を問う前に、
子どもと活動との関係を問う。

子どもが活動を始めないときも、深く没頭しているときも、そこには活動とのさまざまな関係があります。

私たちは、子どもの姿を丁寧に読み取り、活動全体の文脈を捉えながら、その学びを支える環境や関わりを考え続けます。

遊びの中にある学びを見いだし、その広がりと深まりを支えること。
それが、荒尾第一幼稚園の大切にしている保育です。

「足場かけを考える」シリーズを読む →

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参考にした研究・文献

研究の概念を本園の実践に照らして整理しています。学齢期を対象とした研究も含み、その尺度を幼児にそのまま当てはめて評価するものではありません。

[1] 興味の発達
Hidi & Renninger(2006)The Four-Phase Model of Interest Development.

[2] 興味・動機づけ・エンゲージメント
Renninger & Järvelä(2022)Designing for Meaningful Learning. The Cambridge Handbook of the Learning Sciences, 3rd ed., Chapter 30.

[3] エンゲージメントの三側面
Fredricks, Blumenfeld & Paris(2004)School Engagement: Potential of the Concept, State of the Evidence.

[4] 主体的なエンゲージメント
Reeve & Tseng(2011)Agency as a fourth aspect of students’ engagement during learning activities.

[5] インボルブメントとウェルビーイング
Laevers(2011)Experiential Education: Making Care and Education More Effective Through Well-Being and Involvement.

[6] 活動の中の学び
The Cambridge Handbook of the Learning Sciences, 3rd ed.(2022), Chapter 7: Learning in Activity.

[7] 活動理論
Engeström & Sannino(2021)From mediated actions to heterogenous coalitions: four generations of activity-theoretical studies of work and learning.

[8] 足場かけ
Tabak & Reiser(2022)Scaffolding. The Cambridge Handbook of the Learning Sciences, 3rd ed., Chapter 3.

[9] 支援の調整・縮小・責任の移行
van de Pol, Volman & Beishuizen(2010)Scaffolding in Teacher–Student Interaction: A Decade of Research.