幼稚園に教科がない理由 〜結びついていくこと

「みんな仲良く」と言う言葉。小学校低学年教室の黒板の上に掲げられている文字としてイメージできる方もいらっしゃると思います(実際にあるのかわかりませんが)。幼稚園の保育目標のイメージでも「みんな仲良く」を思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。

「みんな仲良くしましょう」と先生から言われただけでは、仲良くする気持ちは育まれません。

保育者は、どのような「体験」を重ねることで「みんな仲良く」が育っていくのか、具体的な道筋を描く必要があります。
下の「(3)協同性」の写真のように実際に遊んだり、書かれている文章のように共同で何かを作ったりする体験を通じて、仲良くする心地よさや意味を学びます。

3歳児

何人も子どもたちが集まれば、いつも一緒にいる「気の合う友達」ができます。年長組になると本園では自由な遊びの時間、ケイドロや缶蹴りが盛んに行われます。この遊びは「気の合う友達」だけでは人数が足りません。いつも一緒にいない子どもたちも集まって行います。ケイドロや缶蹴りなどの「ルールのある集団遊び」は「気の合う友達」だけでは味わえない楽しさを体験します。私たちは「遊び仲間」と呼んでいます。

「気の合う友達」と「遊び仲間」とも結びつく風通しのいい集団は、その後のプロジェクト活動でも課題が起きた時に、集まって知恵を出し合い解決していく仲間となります。

「みんな仲良く」の良さを知っていく体験は、他の資質や能力の育ち(約束、課題解決、考える力、数量・文字の感覚など)と結びついています。幼児期の子どもたちは、様々な育ちが相互に関連しながら物事の基礎を育んでいきます。

大人になると「みんな仲良く」の必要性を頭で理解できます。幼児期の子どもは「みんな仲良く」を感じて学んでいきます。自覚して学ぶことはまだ難しいのです。
それが幼稚園に教科がない理由です。


幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)(幼稚園教育要領 文部科学省)

通称「10の姿」と呼ばれるこの姿は、幼児期にふさわしい遊びや園生活を積み重ねることによって、
幼児教育において育みたい資質・能力が育まれている、5歳児後半の具体的な姿が書かれています。

写真はやがて10の姿に繋がっていくものを取り上げています。

「積み重ねエピソード」は、過去にBlog記事にした「10の姿」につながる様々な体験です。
1つの場面にいくつもの「10の姿」が重なるので、同じ記事があります。

(1)健康な心と体

 幼稚園生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。

3歳児

風の強い日

描いてみたい 
面白そう
思ったままに体を動かし絵を描く

(2) 自立心

 身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる。

3歳児

「1人でできたよ」と「自分でできたよ」

トロトロを作った時の表現の違い。

「一人でできたよ」は水加減まで自分で考えて作ることができた。

「自分でできたよ」は初めて保育者から離れ、自ら動いて作ることができた。

似たような言葉にも感じられるが子どもの状況によって、大きな違いがある言葉であるということに気づくことができました。 

(3) 協同性

友達と関わる中で、互いの思いや考えなどを共有し、共通の目的の実現に向けて、考えたり、工夫したり、協力したりし、充実感をもってやり遂げるようになる。

3歳児

「つかまって」
協同性主体的な遊びの中での、楽しい出来事。遊びの中で体験を積み重ね、協同性が育まれます。

(4) 道徳性・規範意識の芽生え 

 友達と様々な体験を重ねる中で、してよいことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに共感したりし、相手の立場に立って行動するようになる。また、きまりを守る必要性が分かり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったりするようになる。 

ドッジボールコートを作る。5歳児

みんなで遊ぶ
5歳児になると、遊びの中で起こるトラブルにおいて「みんなが楽しく遊べるためには?」を考え、自分達で解決したり、遊びを継続したりするようになります。ルールを守るだけではなく、みんなが納得できるルールに作り変える力も持っている子ども達です。それは友達の気持ちに共感したり、相手の立場になって考えたり行動する力も育まれているからです。

(5) 社会生活との関わり 

 家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに、地域の身近な人と触れ合う中で、人との様々な関わり方に気付き、相手の気持ちを考えて関わり、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に親しみをもつようになる。また、幼稚園内外の様々な環境に関わる中で、遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報に基づき判断したり、情報を伝え合ったり、活用したりするなど、情報を役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用するなどして、社会とのつながりなどを意識するようになる。

5歳児5月

恐竜博物館で見た恐竜

細かいところまで『本物っぽさ』にこだわっての製作。
一人から始まった製作が「何やってるの?」と
一人、一人、手伝う人が増えて、クラスに広がってきました。

(6) 思考力の芽生え

 身近な事象に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる。また、友達の様々な考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。 

3歳児

じょうごで遊ぶ(3歳児) 
〜思いついたことを次々と試す〜

揺らすと水が染み込む(発見)

じょうごを砂場にさし、水を入れじっと見つめているK君。少しずつ水が

染み込む様子を見て「でた〜」と嬉しそうに教えてくれました。

でも「どうしてもっと早く水がなくならないんだろう」と疑問に思った様子。

穴・隙間が必要?ふるい(予想)

遊具置き場から、ふるいを持ってきて砂→ふるい→じょうごの順に重ねてい

きます。砂とじょうごの間に穴の空いているものを置いたら水の流れが良く

なるのではと考えたのかなと思います。「こうかもしれない」と自分なりに

予想してやってみる姿がいいなと思います。

砂で固めて立たせる(自分なりの表現)

ふるいの上にじょうごを立たせたかったK君。そのままで立たないことに気づき、砂場の砂で土手を作りそこに指す方法を思いつきました。予想し、試行錯誤しながら遊びを進めている姿がすごいなと感じる場面でした。

(7)自然との関わり・生命尊重 

 自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、好奇心や探究心をもって考え言葉などで表現しながら、身近な事象への関心が高まるとともに、自然への愛情や畏敬の念をもつようになる。また、身近な動植物に心を動かされる中で、生命の不思議さや尊さに気付き、身近な動植物への接し方を考え、命あるものとしていたわり、大切にする気持ちをもって関わるようになる。

ずっと見てきた蝶を空に。5歳児

蝶を育てる

幼虫の時から観察、記録、不思議に思うことの話し合いをすることによって、虫の命を大切にしたいという気持ちが育まれます。元々虫が好きな子どもたちでしたが、以前よりも一層、虫のことを思い優しくしようという気持が強くなったように感じます。

(8) 数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚

 遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚をもつようになる。

5歳児9月

字  楽しく 嬉しく 堂々と

「垂れても間違ってもいいよ」と大きな字を書いてみました(文字に親しむ体験として)。「書けるかな」より、「やってみたい!」が大きかったようです。筆は壊れたホウキの先をしばった物。前方にあるお手本を見ながら、真剣な子どもたち。どこに筆を置くか、考えながら書いていました。味のある作品に仕上がりました。

(9) 言葉による伝え合い

 先生や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる。

ボールが遠ざかっていく迫力のアングル。

心動かす出来事に触れ、思わず自分の気持ちを友達に言葉で伝えようとする姿。

(10) 豊かな感性と表現

心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる。

「風がひゅうー」年少児 4月

風を強く感じる園庭で

言葉と絵で

風を表現していました。