雨樋遊びの記録 (年少組5月~6月)
実践者 年少組担任松川
年少組の子ども達が幼稚園の道具の場所や使い方を覚え、またそれらで自分なりに興味を持って工夫して楽しめるように、雨樋(あまどい)遊びができる環境を用意しました。
そして雨樋遊びの中で子ども達はどのようなことを楽しんでいるか、またどのようなことを疑問に思っているかに注目しました。
雨樋遊び、始まり
雨樋遊びを始めたばかりの頃、子ども達は保育者が雨樋で作った環境に興味を持って集まってきました。木の実を雨樋で転がしたり、道具を使って水を流したり。またペットボトルを水の中に沈めると、ボコボコと音を立てて泡を出しながら中に水が入っていくことを楽しんでいました。
この頃は保育者が声をかけると返事をしますが、皆一人の世界で黙々と遊んでいる様子でした。
数日後、Aちゃんが「プールを作りたい!」(雨樋遊びのこと)と保育者に伝えてきました。雨樋遊びをしているところに漏斗を置いてみると、使い方はわからないけど手にとり使ってみます。そして自分なりに試行錯誤して容器に水を貯めようとしていました。
またある日。Kくんは、雨樋に流した水が時間をかけて向こう側の保育者の元へたどり着くことを楽しんでいました。何度も水を流しては「水行った?」と保育者に確認していました。
また、子ども達は裸足になって雨樋遊びでできた水たまりに入り、土の感触や冷たさを楽しんでいました。
コップ逆さま事件の真相
Sくんが雨樋から流れてきた水を、コップを地面に逆さに置いて底面で受け止めていました。コップの底に水が当たって弾ける様子を見たいようでした。
Sくんが離れている時に、今度はAちゃんがやってきました。AちゃんはSくんが置いていた逆さまコップをひっくり返し、コップに雨樋からの水を貯めようとしました。
今度はAちゃんが離れているうちにSくんが戻ってくると、逆さまに置いていたはずのコップがひっくり返って水が貯められているではありませんか。Sくんはまたコップを逆さに置き、底に水が当たって弾けるようにしました。すると今度はまたAちゃんがやってきて……これが4~5回繰り返された後、Sくんはコップをひっくり返しているのがAちゃんだと気がつきました。
SくんはAちゃんに「しないで」と言いました。保育者がわけを話すとAちゃんは「わかった」と言って自分のコップを持ってきたのでした。
大きなペットボトルに水を入れるには
子ども達は、小さなペットボトルをバケツに沈めると中に水を入れることができることに気がつきました。では大きなペットボトルではどうでしょうか。大きなペットボトルを用意してみました。
子ども達は大きなペットボトルも水に沈めようとしましたが、浮力が働いて沈まずに困った様子。すると、小さなペットボトルに水を汲んで大きなペットボトルに移したり、漏斗を使って水を貯めてみようとする姿が見られました。
またある日、Kくんが雨樋の水の流れが悪いことに気がついてじっと観察していました。すると、雨樋の隙間から水が漏れていることに気がつきました。Kくんは木切れを持ってきて雨樋の高さを調節してみるなど、この頃は子ども達が試行錯誤する姿がよく見られました。
二つの雨樋
今までは一つの雨樋で、年少組だけで遊んでいました。雨樋を二つにすることで、年少組の子ども達が他の年齢の子ども達の姿を見る場面に繋がったらいいなと思い、もう一つ用意してみました。
雨樋を二つにすると、雨樋の周りがたくさんの子ども達が出入りする場になりました。それに伴って、年少組の子ども達が異なる年齢の子ども達から道具の使い方を学んだりする姿が見られるようになりました。
ある日、水の流れが川のようになっていることに気がついた子ども達は、保育者と木切れを使って橋作りを楽しむようになりました。特にKくんは橋の並べ方にこだわり、一本橋や三輪車が渡れる橋などを作っていました。
またこの頃は雨樋遊びのために保育者が用意していた水がなくなると、子ども達で汲みに行こうとする場面が見られるようになりました。
Aちゃんがある日保育者に「プールを作る!」と言って、雨樋を自分で持ってきて重ね始めました。しかし雨樋がうまく重ならず、水が途中であふれてしまい「できない」と言います。その声を聞いたSくんが「こうすればいいんだよ」とやってみせていました。
子ども達が人と関わる、教え合うといったことが増えたことにより、遊びがより一層楽しくなってきたのではないかと思います。
水車登場
雨樋に取り付けると水を受けて回転する水車を用意してみました。
すると、水車に興味を持った年長組の子ども達も参加するようになってきました。Kくんも水車に興味を持って、黙々と年長組に混ざって水を流していました。
Yくんは年長組たちと違う雨樋で、小さな容器に水を入れて水車を回そうとしますが、うまく回りません。年長組や保育者が「水をたくさん流した方が回る!」と話していることに気がつき、容器を大きなものに変えたり、水をたくさん汲んできたりとYくんは繰り返し水車を楽しんでいました。
この頃、年長組が水車はどうしたら回るかのアイディアを積極的に出して遊びだしますが、その姿に圧倒された年少組の子ども達は雨樋遊びから離れていく姿もありました。そこで、水車をつけた雨樋と普通の雨樋を用意してみました。
Aちゃんは雨樋周りの水で好きなトロトロ(泥や砂を水で溶いてトロトロさせたもの)を作りながらも年長組の水車を見て「すごいね」と言っていました。
Aちゃんは自分が作ったトロトロを保育者や友達に「触って!」と感触の気持ちよさや嬉しさを自分から伝えようとしていました。
振り返って
雨樋遊びを通じて、水が流れる面白さや物を転がす面白さ、そして水が流れた後の土の様子などを楽しんでいる子ども達の姿が見られました。
最初は皆がそれぞれ黙々と自分が好きなように楽しみながら、「すごい!」「面白い!」と感じたことを表情で見せてくれました。
そこに保育者が共感することで、「誰かに想いを伝える嬉しさ」を感じ、少しずつ子ども達同士でも「これすごいね!」と共感しようとする姿も見られてきました。
また、積極的に物や人と関わろうとする姿も見られるようになり、自分なりにわかったことや気がついたことを次の日も楽しんだり、「こうするんだよ」と保育者や友達に教えてくれる姿も見られました。
そのような姿は雨樋遊びの中だけではなく、保育者が新しい遊びの環境や道具を用意している時にも「これはどうやって使うんだろう」という風に積極的に興味を持って関わってくる姿が増えてきたように感じます。
その好奇心を保育者や友達と一緒に「できた!」「面白い!」と楽しむことで、子ども達の「こうしたらこうなるかな?」と考える力にもつながっていくのではないかと思いました。