本当の意味での「意欲的」「主体的」(年中組)

「複数のプロジェクト活動」(年中組6月~7月) 続報

年中組担任 上野

前回の記事を書いた後、これは保護者の方々にもちゃんと伝えたいなと思ったことが出てきましたので、前回の補足としてもう一つ書きたいと思います。前回、プロジェクト活動は子どもたちが意欲的に参加できる活動になったということを書きました。それについての説明が十分ではなかったように感じたので、今回はそれをしっかりと伝えたいと思います。

木はざらざらしている。
新聞紙で枝

以前のように保育者が活動の内容を決め、みんなで同じ活動を進めていくという方法でも子どもたちが主体的に参加するということは可能です。決められた中でいろんな工夫をしたり、「こうしようかな、ああしてみようかな」と試行錯誤しながら参加することもできるでしょう。

 しかし、これだと自分の興味がある分野では一生懸命考えてやってみるけど、苦手だと感じている分野のものは「できないからしない」「やりたくない」と、取り組む前から苦手意識だけが先走っていたり「やりたくないけどみんながするからやっとこう」という気持ちで、雑に取り組む姿もありました。

 しかし、自分でやることを選んで活動するプロジェクト活動となると「自分で選んでやってるんだ」ということを特別に感じる気持ちや、「これを完成させたいからこうしてみよう」と目的や目標を持って工夫して取り組む気持ちが生まれるのだと思います。

木のザラザラをしわくちゃにした新聞紙で再現。
何人もの子どもが関わり数日間かけて色ぬり。

この気持ちひとつで、いつもだったら「分からない。できない」という気持ちが先に出てきていた子も、「こうしてみたらできそうかな?」と保育者に相談しにきたり、「やってみたらいいんじゃない?」と言うと実際にやってみて「出来なかったから次はこうしてみる」など、自然と自分で考えて試してみる時間ができていました。

 これが本当の意味での「意欲的」「主体的」な姿なのかなと思います。

 また、今回のプロジェクト活動では製作がメインでしたが、活動の合間で運動する時間やリズムで遊ぶ時間などを取り入れていたので、子どもたちの気持ち的にもいいバランスで取り組めたのかなと思います。

(やりたいことばかりやらせることで)できないことはできないまま偏るのではないか、という心配もありました。しかし、子どもたちがどんどん前向きに試したり参加したりする様子を見て、「好きなことを追求して学ぶ」という方法もあるのだと、このプロジェクト活動に安心して取り組むことができました。

サメの肌もゴワゴワしている。

「主体的な活動の大切さ」 園長 宇梶達也

 今回の活動は「主体的・対話的で深い学び」と言われるアクティブ・ラーニングの活動です。子どもたちが「やろう」という気持ちを持って(主体的)、物事に真剣に向き合い(対話的)、友達と会話し(対話的)、課題を解決していく活動(深い学び)です。

 この活動の中、「ここ どうしょう」「ここ うまくいかない」など、子どもたちにとって意味ある出来事や事件が次々と起こりました。共同制作の完成に向けて、子どもたちは活動しますが、「完成」より大切なのはその過程で起きる「様々な出来事」です。それらにひとつ一つ、向き合っていくことが成長につながっていくことと思います。ここで発揮する粘り強さが「学びに向かう力」へとなっていきます。そして、子どもたちにとって意味ある出来事は「主体的な活動」の中にあるのです。

 真剣な思いで物事に向き合っている時、友達との関わりがいつもより深くなる姿が見られました前回記事「複数のプロジェクト活動」参照)。幼児期には「自己の表出」している、その時に関わる「外の世界」がどんどん広がっていくのだと思います(下記 文献参照)。「自発的」や本当の意味での「意欲的」「主体的」は幼児期の教育にとって重要なものなのです。

根気よく円錐を作ってサメの牙。

文献

『幼稚園教育要領解説』(平成30年 フレーベル館)より、今回のプロジェクト活動の意義にも通じると感じた文を紹介します。

 すなわち、幼稚園では、幼児の自発的な活動としての遊びを十 分に確保することが何よりも必要である。それは、遊びにおいて幼児の主体的な力が発揮され、生きる力の基礎ともいうべき 生きる喜びを味わうことが大切だからである。幼児は遊びの中で能動的に対象に関わり、自己を表出する。そこから、外の世界に対する好奇心が育まれ、探索し、物事について思考し、知識を蓄えるための基礎が形成される。また、ものや人との関わりにおける自己表出を通して自我を形成するとともに、自分を取り巻く社会への感覚を養う。このようなことが幼稚園教育の広い意味での役割ということができる。 

(幼稚園教育要領解説平成30年3月 P20)

 教師は、幼児の主体的な活動が確保されるよう幼児一人一人の行動の理解と予想に基づき、計画的に環境を構成しなければならない。この場合において、教師は、幼児と人やものとの関わりが重要であることを踏まえ、教材を工夫し、物的・空間的環境を構成しなければならない。また、幼児一人一人の活動の場面に応じて、様々な役割を果たし、その活動を豊かにしなければならない。 

(幼稚園教育要領解説平成30年3月 P26)

 幼稚園教育において育みたい資質・能力とは、「知識及び技能の基礎」 「思考力、判断力、表現力等の基礎」「学びに向かう力、人間性等」で ある。 

「知識及び技能の基礎」とは、具体的には、豊かな体験を通じて、幼児が自ら感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになったりすること、「思考力、判断力、表現力等の基礎」とは、具体的には、気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、 工夫したり、表現したりすること、「学びに向かう力、人間性等」とは、 具体的には、心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとす ることである。 

(幼稚園教育要領解説平成30年3月 P50)

(1) 健康な心と体 幼稚園生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって 

心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生 活をつくり出すようになる。 

(幼稚園教育要領解説平成30年3月 P54)

幼児は気に入った活動に出会うと生き生きと繰り返し取り組もうとす る。しかし、次第に興味や関心が薄れてきても他にやることが見つから ずにその活動を繰り返している場合もある。幼児の活動への取組の様子 を見極めつつ、必要に応じて、幼児が取り組んでみたいと思えるような 意欲を喚起する環境を構成したり、取り組んで楽しかったという充実感 や満足感が味わえるようにすることが大切である。このことにより、幼児の興味や関心が広がり、多様な活動をするようになる。 

幼児が楽しみながら取り組む活動には、身近な環境に関わり、試したり、工夫したりしながら作って遊ぶこと、自分が思ったことや考えたことを表現して遊ぶこと、また、戸外で友達と体を十分に動かして遊ぶこ となど様々なものがある。様々な遊びの面白さに触れ、いろいろな経験を通して、幼児自らが積極的、主体的に選択して遊ぶようにすることが大切である。 

(幼稚園教育要領解説平成30年3月 P150)

複数のプロジェクト活動(年中組6月〜7月)

子どもたちを育むいろいろな出来事が生まれる。

年中組担任 上野

プロジェクト活動のはじまり

 プロジェクト活動とは、1つのテーマを長期間に渡り、子どもたちと保育者が一緒になって掘り下げていく活動のことです。子どもたちがより主体的に参加できる活動として注目されている保育の方法です。

 数日間に渡るプロジェクト活動を行うにあたって、いまの年中組にどんなテーマがいいのか、題材を考えていました。

 子どもたちは毎日園庭で虫を探したり、観察したり、ダンボールなどで虫を作って遊んでいました。

 ある子が「お部屋の中にも虫がたくさん貼れるような木が作りたい」と話してくれました。すると「それいいね!!」と賛成してくれた子どもたちがたくさんいたため、「どんな木にしたい?」と保育者が聞くと「お外みたいな大きな木がいい」と答えました。そこで、大きなダンボールを使って木を作ることにしました。

 何人かがこの大きなダンボールで木作りを始めると、それを見ていた子どもたちが、「僕も大きいサメを作りたい」「車を作りたい」などと次々に自分の作りたいものを提案してくれました。

 そこで、もともと子どもたちが遊びの中で楽しんでいた「画用紙のオブジェ作り」も入れて、協同製作の作品をいくつか作っていくことにしました。

 今回は、3週間ほど続いた活動の中での子どもたちの様子や、担任である私がこの活動を実践した中で体験したこと、実感したことをお伝えできたらと思います。

動き始めた子どもたち

  やりたいものを選んで活動するという形態に決め、題材は「大きな木」「サメ」「画用紙を使ったオブジェ」「車」「恐竜」の5つにすることにしました。

 取り掛かりとして、初日の朝の集まりが終わってから、この5つのテーマから自分が作りたいものを選び、そこに集まったメンバーで協同製作をすることを伝えました。

 そして用意している題材の説明、することの確認をしてから実際に作り始めました。

 すぐに自分の決めたものに向かっていく子、友達がどんなものを選ぶのかを見てからいく子、まずは全部に関わって作りたいものを決める子、どれを選んだらいいのか分からず困っている子など、ほんとうにいろんな子どもたちの姿が見えました。

 困っている子どもたちとはまず一緒に製作をしている近くに行ってみて、「こんなことをするんだ」というのを見て「やってみたい」と思うものを見つけようと意識して関わりました。

 全部を見て回った後に「何かしてみたいことはあった?」と聞くと、自然と選んでいく子や「今日は先生がすることを一緒にしたい」という子など、自分なりに何をするかを選んで取り掛かる姿がありました。

 選んで活動をするというのは年中組では初めて取り組んだため、どうなるんだろうという不安とワクワクがあったのですが「あ、うまくいくのかも」と思ったのがとても印象的でした。

友達との関わり方の変化

 この活動を取り入れてすぐに変化を感じたのは子どもたち同士の関わり方です。

 以前の子どもたちも、友達が近くにいるということにはなんとなく気づいていたり、自分の気持ちを伝えたりする姿はありました。

 しかし、今回の活動では友達を思いやっての言葉かけや、分からないことを教えてもらおうとする姿がとても多く見られました。

 例えば、何をしていいのか分からずにただ立っている友達がいると「こっちで一緒に作ろうよ」「これ手伝ってくれない?」などと話しかけて一緒に取り組んでくれる子どもがいました。また、鳥の巣を作っている場面では新聞紙で作った枝が湿気に負けてなかなかピンッと立たないで困っていると「ダンボールのやり方に変えてみたら?」と提案してくれる子どもの姿もありました。

 鳥の巣を作っていた子は、自分が一生懸命作っていたので「せっかくがんばったのにもったいないから嫌だ」と言ってましたが、鳥の巣を完成させるために、友達の提案を受け入れようとする姿もありました。

 このやりとりも、自分の考えを主張するだけではなく、友達の提案も受け入れようとしたことで完成を一緒に喜ぶという体験にも繋がりました。

生活態度の変化

  子どもたちの園生活での過ごし方にも大きく変化がありました。

 今までは朝の集まりや活動の時間など、時間を切り替えて動くのが苦手で、なかなか参加できずにいた子どもたちも数人見られました。

 しかし、この活動に没頭していたことによって朝の集まりの前に「1回みんなでお集まりをして、その後にこの続きをしようよ」と声をかけると、「分かった」と部屋に入ってくることが多くなったのです。

 これには正直とても驚きました。ただ単に「切り替えるのが苦手だから仕方ない」と放っておくのではなく、子ども1人1人が楽しんで没頭できる活動があるだけで園生活までも主体的な姿に変わるということがこの時に改めて経験して分かり、大切なことだと実感しました。

本当の「意欲」「主体性」

 また、活動に対する意欲や主体的に取り組もうとする姿も大きく変わったように思います。保育者が活動の内容を決め、みんなで同じ活動をするという以前のやり方でも、「じゃあこんな工夫をしてみようかな」「なんでこうなるんだろう?」と主体的に活動に取り組むことはできると思います。

 しかしその活動があまり好きではなかったりすると、主体的というよりは「あまりしたくないけどみんながやってるから自分もしよう」と思う気持ちに近いものがあるのかなとも思います。

 今回の活動では「自分が選んでやっている」という気持ちが子どもたちの中には強くあったようで、どうにか完成させようと友達と一緒に試してみたり、自分なりに考えてやってみようとする姿がとても多く見られました。

 恐竜作りをしていたある場面。恐竜を作ろうと集まった子どもたちでしたが「どんな形の恐竜にする?」と話し合いの雰囲気で聞くと、「縦長のがいい」や「横長がいい」などそれぞれに思いを伝え始めました。「どうしよう?」と聞くと、一番最初に作っていた子どもが縦長を作っていたことから、その形をそのまま使い、縦長の恐竜にしようということで進んでいくことになりました。

伝え方の工夫

 ある子どもも初めはそれで良いと作っていましたが、だんだん自分のイメージしていた恐竜とは違う形になっていったため「違う、そうじゃない」「全然違う」と何度も何度も友達に伝えていました。

 その子は、いつも自分のイメージがうまく伝わらないと「もうやらない」と違うところに行き、1人で別のことをしている子でした。しかし、今回は何度も伝えようとしていたのでびっくりしました。

 何度伝えても友達にはうまく伝わっていなかったので、保育者が「何が違うのかがみんな分からないみたいだよ」と伝えると、さっと粘土を取りに行き何かを作り始めました。私は「もうやめたのかな」と思っていると、しばらくして粘土で作った恐竜を持ってきました。

 そこにあまり言葉はなく、「これ」と渡してきたので「これ恐竜?」と聞くと、「これが作りたい」と言いました。そこで「そういうことだったのか!!」と気がつき、みんなに「こんな恐竜を大きいので作りたかったんだって」と伝えると、みんなも「ああ!」という反応をしてくれました。

そこで自然と、粘土で作った子どもに対して「〇〇、これでいい?」と聞きながら一緒に作ってくれる姿がありました。

 この場面を見て自分も恐竜作りに参加したいという思いから、どうやったらみんなに伝わるのかを考え、自分なりの表現で伝えようとしたのかなと思うと、これは本当の意味で主体的に意欲的に取り組む活動に繋がったのではないかなと思いました。

子どもたちを育てるいろいろな出来事

  子どもたちの興味があることをとことん掘り下げていく活動は、「好きなことしかできないようになるのではないか」「出来ることと出来ないことが偏るのはないか」と思う方もいるのかなと思います。

 私も、正直はじめはそう思っていました。しかし、実際に子どもたちとこの3週間を過ごしてみると、今までに見たことがないくらい没頭して物を作り続ける姿や、友達とコミュニケーションを取りながら完成に向けてがんばる姿、そんな姿を見て不安は全くなくなりました。

 むしろ苦手な分野のことにも「完成したいからやってみよう」と、子どもたちなりに前向きに取り組めているように感じました。

 自分がやりたいことをとことんやることによって自信がついたり、そこに必要なことがあったら「苦手だ」と思う前に作ってみようとしたり考えたりする子どもたちの姿を見て、このプロジェクト活動での保育が注目されている理由が分かったような気がしました。

 私自身、この活動をしている期間は「明日はどんなことが起きるんだろう」とワクワクする気持ちが毎日ありました。そして、子どもたちの「今日は何する?」と聞いてくる姿もワクワクしているように感じました。

 この活動はこれからも続けていきたい、子どもたちにとっても保育者にとっても有意義な時間になるものではないかと思います。


人形劇 映画作りの記録 (年長組6月~7月)

人形劇映画作りの記録 (年長組6月~7)

『たなばたこびとのおはなし』

実践者 年長組担任 増永

『共通の目的に向かって友達と一緒に取り組もうとする気持ちを持つ』

 これをねらいに、友達と一緒に協力すること、工夫すること、思いや考えを伝えることを意識してこの活動に取り組みました。

 さくら組になってから初めてのクラス全体での協同活動です。友達と一緒に取り組む楽しさや大変さを感じ、より友達との関係が深まればいいなと思いました。

初めての協同活動

   今回、登場人物はiPadで描いたものをプリントして人形にしました。背景やその他必要なものはその物にぴったりだと思える材料を選んで作っていく方法で取り組みました。

 製作中の子ども達の様子はとても意欲的で、自分達であれこれ「こうしよう」と決めて作業を進めていました。また、普段絵で苦手意識があるような子でも楽しんで描いていたように思います。

 昨年までは登場人物の大きさにまでこだわって作っていたので、中には何度も同じ作業をやり直さなくてはならない状況もあり、「やりたい」という意欲が薄くなっていく姿もあったように思います。

 しかし今回は製作にiPadを導入したことで製作の苦労が軽減され「やりたい!」という意欲が持続できたのではないかと思いました。 

 今回は年長組になって初めての協同活動で、友達と一緒に同じ目的に向かって取り組むもうとする気持ちを育むことがねらいです。友達と一緒に協力しながら進めていくことの楽しさを十分に味わってほしいということを大切にしたかったので、この手法でよかったと思います。

練習開始

   劇に必要なものを作り終える頃に練習も始めました。練習でもそれぞれが役割を持ち、みんなで作っていく過程を感じてほしいという思いを持って取り組みました。

 話の内容を4つの場面に分け、各場面で役を決めて練習を始めました。小さなグループでの練習を繰り返し、撮影の時にクラス全員で進められるように取り組みました。

人形劇をやっていく中で、人形の見せ方や動かし方が難しいと感じていた子ども達。その日の振り返りでビデオを見ながら「どうしたらいいかな?」と話し合います。

 そして、その反省を次の日の練習前にみんなで確認する。それを繰り返していくと「頭見えてるよ」「次、セリフだよ」と子ども達同士で声をかけあう姿も出てきました。

撮影、効果音探し

 撮影はみんな楽しみにしていたので、長い時間でしたが集中してそれぞれに役割を果たしました。

   そして最後に、撮影した映画に音を入れる作業です。

 まずは音に親しみを持てるように、楽器や音の出るものを沢山用意しました。それらを吊るしておくことでいろんな音の出し方に気づいたり、ドラマーのように叩いたりと面白い活動でした。

そしてここでみんなで取り組めるように「1人1つは映画に使える音を見つける」という課題を出しました。

 ただ音を出すだけではなく「これ星が流れる音みたい」「足音ってこんなじゃない?」などと使えそうな音を意欲的に見つけていたように思います。

 そして録音では自分達が作った音が映画の中に入っていく感じが不思議でもあり、嬉しくもあり、自分たちで映画を作り上げていく楽しさを十分に味わっていたと思います。

振り返って普段の遊びの中で育つ力

   このようにみんなで同じ目的に向かって取り組むためには、普段の遊びの中での友達同士の関わりが大切だと感じます。

 さくら組になって特定の安心できる友達だけでなく、いろんな友達と関わりながらルールのある遊びを楽しんできました。

 その中で何かうまくいかないことがあると一緒に「どうすればみんなが楽しめるかな」と考える機会を作ってきました。

 初めは相手の気持ちを受け入れられず自分の「こうしたい」という気持ちを強く出すこともありました。しかし、それではどんどん遊び仲間が減っていき遊びが楽しくなくなるという経験をします。

 そしてその経験から、次は友達の思いや考えに耳を傾け、少しずつ折り合いをつけながら遊びをすすめていくようになったなと感じます。

 そんな中で取り組んだ『たなばたこびとのおはなし』の映画作り。

 友達と相談したり、教えあったりしながら取り組む姿は遊びの姿とつながっているように感じました。

 そして、映画作りが終わった後の子ども達の様子がまた変わったように感じます。

 仲のいい友達との関係を深めながらも、さらにいろいろな友達と積極的に関わっているところです。

 そして友達と遊ぶ楽しさを感じ、自分達で仲間を集めて遊びを始めたり、保育者がいなくても遊びが長く続くようになりました。

 遊びの楽しさで集まる「遊び仲間」が作られつつあるのではないかと感じています。

雨樋遊びの記録 (年少組5月~6月)

実践者 年少組担任松川

 年少組の子ども達が幼稚園の道具の場所や使い方を覚え、またそれらで自分なりに興味を持って工夫して楽しめるように、雨樋(あまどい)遊びができる環境を用意しました。

 そして雨樋遊びの中で子ども達はどのようなことを楽しんでいるか、またどのようなことを疑問に思っているかに注目しました。

雨樋遊び、始まり

 雨樋遊びを始めたばかりの頃、子ども達は保育者が雨樋で作った環境に興味を持って集まってきました。木の実を雨樋で転がしたり、道具を使って水を流したり。またペットボトルを水の中に沈めると、ボコボコと音を立てて泡を出しながら中に水が入っていくことを楽しんでいました。

 この頃は保育者が声をかけると返事をしますが、皆一人の世界で黙々と遊んでいる様子でした。

 数日後、Aちゃんが「プールを作りたい!」(雨樋遊びのこと)と保育者に伝えてきました。雨樋遊びをしているところに漏斗を置いてみると、使い方はわからないけど手にとり使ってみます。そして自分なりに試行錯誤して容器に水を貯めようとしていました。

 またある日。Kくんは、雨樋に流した水が時間をかけて向こう側の保育者の元へたどり着くことを楽しんでいました。何度も水を流しては「水行った?」と保育者に確認していました。

 また、子ども達は裸足になって雨樋遊びでできた水たまりに入り、土の感触や冷たさを楽しんでいました。

コップ逆さま事件の真相

 Sくんが雨樋から流れてきた水を、コップを地面に逆さに置いて底面で受け止めていました。コップの底に水が当たって弾ける様子を見たいようでした。

 Sくんが離れている時に、今度はAちゃんがやってきました。AちゃんはSくんが置いていた逆さまコップをひっくり返し、コップに雨樋からの水を貯めようとしました。

 今度はAちゃんが離れているうちにSくんが戻ってくると、逆さまに置いていたはずのコップがひっくり返って水が貯められているではありませんか。Sくんはまたコップを逆さに置き、底に水が当たって弾けるようにしました。すると今度はまたAちゃんがやってきて……これが4~5回繰り返された後、Sくんはコップをひっくり返しているのがAちゃんだと気がつきました。

 SくんはAちゃんに「しないで」と言いました。保育者がわけを話すとAちゃんは「わかった」と言って自分のコップを持ってきたのでした。

大きなペットボトルに水を入れるには

 子ども達は、小さなペットボトルをバケツに沈めると中に水を入れることができることに気がつきました。では大きなペットボトルではどうでしょうか。大きなペットボトルを用意してみました。

 子ども達は大きなペットボトルも水に沈めようとしましたが、浮力が働いて沈まずに困った様子。すると、小さなペットボトルに水を汲んで大きなペットボトルに移したり、漏斗を使って水を貯めてみようとする姿が見られました。

 またある日、Kくんが雨樋の水の流れが悪いことに気がついてじっと観察していました。すると、雨樋の隙間から水が漏れていることに気がつきました。Kくんは木切れを持ってきて雨樋の高さを調節してみるなど、この頃は子ども達が試行錯誤する姿がよく見られました。

二つの雨樋

 今までは一つの雨樋で、年少組だけで遊んでいました。雨樋を二つにすることで、年少組の子ども達が他の年齢の子ども達の姿を見る場面に繋がったらいいなと思い、もう一つ用意してみました。

 雨樋を二つにすると、雨樋の周りがたくさんの子ども達が出入りする場になりました。それに伴って、年少組の子ども達が異なる年齢の子ども達から道具の使い方を学んだりする姿が見られるようになりました。

ある日、水の流れが川のようになっていることに気がついた子ども達は、保育者と木切れを使って橋作りを楽しむようになりました。特にKくんは橋の並べ方にこだわり、一本橋や三輪車が渡れる橋などを作っていました。

 またこの頃は雨樋遊びのために保育者が用意していた水がなくなると、子ども達で汲みに行こうとする場面が見られるようになりました。

 Aちゃんがある日保育者に「プールを作る!」と言って、雨樋を自分で持ってきて重ね始めました。しかし雨樋がうまく重ならず、水が途中であふれてしまい「できない」と言います。その声を聞いたSくんが「こうすればいいんだよ」とやってみせていました。

 子ども達が人と関わる、教え合うといったことが増えたことにより、遊びがより一層楽しくなってきたのではないかと思います。

水車登場

 雨樋に取り付けると水を受けて回転する水車を用意してみました。

 すると、水車に興味を持った年長組の子ども達も参加するようになってきました。Kくんも水車に興味を持って、黙々と年長組に混ざって水を流していました。

 Yくんは年長組たちと違う雨樋で、小さな容器に水を入れて水車を回そうとしますが、うまく回りません。年長組や保育者が「水をたくさん流した方が回る!」と話していることに気がつき、容器を大きなものに変えたり、水をたくさん汲んできたりとYくんは繰り返し水車を楽しんでいました。

 この頃、年長組が水車はどうしたら回るかのアイディアを積極的に出して遊びだしますが、その姿に圧倒された年少組の子ども達は雨樋遊びから離れていく姿もありました。そこで、水車をつけた雨樋と普通の雨樋を用意してみました。

Aちゃんは雨樋周りの水で好きなトロトロ(泥や砂を水で溶いてトロトロさせたもの)を作りながらも年長組の水車を見て「すごいね」と言っていました。

 Aちゃんは自分が作ったトロトロを保育者や友達に「触って!」と感触の気持ちよさや嬉しさを自分から伝えようとしていました。

振り返って

 雨樋遊びを通じて、水が流れる面白さや物を転がす面白さ、そして水が流れた後の土の様子などを楽しんでいる子ども達の姿が見られました。

 最初は皆がそれぞれ黙々と自分が好きなように楽しみながら、「すごい!」「面白い!」と感じたことを表情で見せてくれました。

 そこに保育者が共感することで、「誰かに想いを伝える嬉しさ」を感じ、少しずつ子ども達同士でも「これすごいね!」と共感しようとする姿も見られてきました。

 また、積極的に物や人と関わろうとする姿も見られるようになり、自分なりにわかったことや気がついたことを次の日も楽しんだり、「こうするんだよ」と保育者や友達に教えてくれる姿も見られました。

 そのような姿は雨樋遊びの中だけではなく、保育者が新しい遊びの環境や道具を用意している時にも「これはどうやって使うんだろう」という風に積極的に興味を持って関わってくる姿が増えてきたように感じます。

 その好奇心を保育者や友達と一緒に「できた!」「面白い!」と楽しむことで、子ども達の「こうしたらこうなるかな?」と考える力にもつながっていくのではないかと思いました。