どっちでしょ
ある日の荒尾第一幼稚園 2話
どっちでしょ 新バス運転手
こっそりと片方の手に小石などを握りこんで「どっちでしょ」と、どちらの手に握っているか当てさせる遊び。きっと誰もが子どもの頃にやったことがあるのではないだろうか。
送迎バスの中でも子どもたちが「どっちでしょ」とやっているのをよく見かける。
子どもを乗車、下車させるためにバスを止めている間は、私も運転席近くの子どもの「どっちでしょ」の回答者になることがある。
年少組の子は手も小さいうえにまだつめが甘く、握りこんでいるところが丸見えだったり、指の隙間から中身が見えることもしばしばある。
「こっち」
と握っているほうの手を指さすと笑いながら手を開いて小石を見せてくる。
ある日のどっちでしょ。いつも通り不自然に膨らんだ方の手を指さす。
「ブッブー」
子どもはニヤニヤしながら手を開いて見せた。空だ。してやられた、わざと手を軽く握るフェイントだ。私がどうやって中身が入っている手を見分けているのか、いつのまにか見破って学習したに違いない。子どもの学習スピードを侮っていた。やるじゃないか。
それから少しの間勝率は乱れたが、「あえて緩めている手」「小石を落とさないように握りこんでいる手」はまだ不自然で、再び見破るまでそう時間はかからなかった。
またしばらくたったある日。「どっちでしょ」だ。左右の手の開き具合は変わらない、どちらの手にも石が無いように見える。すごい技術だ、もうこうなったら勘で答えるしかない。
「こっち」
「ブッブー」
ニヤニヤしながら手を開いて空の手のひらを見せてくる。これは完敗だ、そう思っていると、さらにニヤニヤしながらもう片方の手のひらを開いてきた。
何も握っていないではないか。だまされた。
「ズルじゃん!」
私がそう抗議するとゲラゲラ笑ってみせるのだった。
こうなるともうゲームにならないと思われるかもしれないが、これ以降ゲームは「右」「左」「どちらにも何も握っていない」の三択になり、かえってより白熱したものに進化した。
後に「両手に小石を握っている場合」というパターンもでてきたが、どう答えても100%私が勝つと気が付いたのか、いつのまにかこのパターンは見かけなくなった。
そして先日、また「どっちでしょ」を挑まれた。不自然に片手だけ大きなパターン。素直にそちらに石を握っているのがまるわかりだ。「こっち!」と指をさす。
子どもはニヤニヤと笑った。
「ブッブー」
そんな馬鹿な、今度はどんなトリックを編み出したのだろうと手をみていると、私が選んでない方の手を開いて空の手のひらを見せてきた。
「ちがう、こっちを選んだんだけど」と抗議すると、アハハハハハと笑っていた。
「違う違う、こっち」
「アハハハハハ」
「こっちを選んだんですけど」
「アハハハハハ」
このパターンをどう攻略するか、私の今の課題となっている。