複数のプロジェクト活動(年中組6月〜7月)

子どもたちを育むいろいろな出来事が生まれる。

年中組担任 上野

プロジェクト活動のはじまり

 プロジェクト活動とは、1つのテーマを長期間に渡り、子どもたちと保育者が一緒になって掘り下げていく活動のことです。子どもたちがより主体的に参加できる活動として注目されている保育の方法です。

 数日間に渡るプロジェクト活動を行うにあたって、いまの年中組にどんなテーマがいいのか、題材を考えていました。

 子どもたちは毎日園庭で虫を探したり、観察したり、ダンボールなどで虫を作って遊んでいました。

 ある子が「お部屋の中にも虫がたくさん貼れるような木が作りたい」と話してくれました。すると「それいいね!!」と賛成してくれた子どもたちがたくさんいたため、「どんな木にしたい?」と保育者が聞くと「お外みたいな大きな木がいい」と答えました。そこで、大きなダンボールを使って木を作ることにしました。

 何人かがこの大きなダンボールで木作りを始めると、それを見ていた子どもたちが、「僕も大きいサメを作りたい」「車を作りたい」などと次々に自分の作りたいものを提案してくれました。

 そこで、もともと子どもたちが遊びの中で楽しんでいた「画用紙のオブジェ作り」も入れて、協同製作の作品をいくつか作っていくことにしました。

 今回は、3週間ほど続いた活動の中での子どもたちの様子や、担任である私がこの活動を実践した中で体験したこと、実感したことをお伝えできたらと思います。

動き始めた子どもたち

  やりたいものを選んで活動するという形態に決め、題材は「大きな木」「サメ」「画用紙を使ったオブジェ」「車」「恐竜」の5つにすることにしました。

 取り掛かりとして、初日の朝の集まりが終わってから、この5つのテーマから自分が作りたいものを選び、そこに集まったメンバーで協同製作をすることを伝えました。

 そして用意している題材の説明、することの確認をしてから実際に作り始めました。

 すぐに自分の決めたものに向かっていく子、友達がどんなものを選ぶのかを見てからいく子、まずは全部に関わって作りたいものを決める子、どれを選んだらいいのか分からず困っている子など、ほんとうにいろんな子どもたちの姿が見えました。

 困っている子どもたちとはまず一緒に製作をしている近くに行ってみて、「こんなことをするんだ」というのを見て「やってみたい」と思うものを見つけようと意識して関わりました。

 全部を見て回った後に「何かしてみたいことはあった?」と聞くと、自然と選んでいく子や「今日は先生がすることを一緒にしたい」という子など、自分なりに何をするかを選んで取り掛かる姿がありました。

 選んで活動をするというのは年中組では初めて取り組んだため、どうなるんだろうという不安とワクワクがあったのですが「あ、うまくいくのかも」と思ったのがとても印象的でした。

友達との関わり方の変化

 この活動を取り入れてすぐに変化を感じたのは子どもたち同士の関わり方です。

 以前の子どもたちも、友達が近くにいるということにはなんとなく気づいていたり、自分の気持ちを伝えたりする姿はありました。

 しかし、今回の活動では友達を思いやっての言葉かけや、分からないことを教えてもらおうとする姿がとても多く見られました。

 例えば、何をしていいのか分からずにただ立っている友達がいると「こっちで一緒に作ろうよ」「これ手伝ってくれない?」などと話しかけて一緒に取り組んでくれる子どもがいました。また、鳥の巣を作っている場面では新聞紙で作った枝が湿気に負けてなかなかピンッと立たないで困っていると「ダンボールのやり方に変えてみたら?」と提案してくれる子どもの姿もありました。

 鳥の巣を作っていた子は、自分が一生懸命作っていたので「せっかくがんばったのにもったいないから嫌だ」と言ってましたが、鳥の巣を完成させるために、友達の提案を受け入れようとする姿もありました。

 このやりとりも、自分の考えを主張するだけではなく、友達の提案も受け入れようとしたことで完成を一緒に喜ぶという体験にも繋がりました。

生活態度の変化

  子どもたちの園生活での過ごし方にも大きく変化がありました。

 今までは朝の集まりや活動の時間など、時間を切り替えて動くのが苦手で、なかなか参加できずにいた子どもたちも数人見られました。

 しかし、この活動に没頭していたことによって朝の集まりの前に「1回みんなでお集まりをして、その後にこの続きをしようよ」と声をかけると、「分かった」と部屋に入ってくることが多くなったのです。

 これには正直とても驚きました。ただ単に「切り替えるのが苦手だから仕方ない」と放っておくのではなく、子ども1人1人が楽しんで没頭できる活動があるだけで園生活までも主体的な姿に変わるということがこの時に改めて経験して分かり、大切なことだと実感しました。

本当の「意欲」「主体性」

 また、活動に対する意欲や主体的に取り組もうとする姿も大きく変わったように思います。保育者が活動の内容を決め、みんなで同じ活動をするという以前のやり方でも、「じゃあこんな工夫をしてみようかな」「なんでこうなるんだろう?」と主体的に活動に取り組むことはできると思います。

 しかしその活動があまり好きではなかったりすると、主体的というよりは「あまりしたくないけどみんながやってるから自分もしよう」と思う気持ちに近いものがあるのかなとも思います。

 今回の活動では「自分が選んでやっている」という気持ちが子どもたちの中には強くあったようで、どうにか完成させようと友達と一緒に試してみたり、自分なりに考えてやってみようとする姿がとても多く見られました。

 恐竜作りをしていたある場面。恐竜を作ろうと集まった子どもたちでしたが「どんな形の恐竜にする?」と話し合いの雰囲気で聞くと、「縦長のがいい」や「横長がいい」などそれぞれに思いを伝え始めました。「どうしよう?」と聞くと、一番最初に作っていた子どもが縦長を作っていたことから、その形をそのまま使い、縦長の恐竜にしようということで進んでいくことになりました。

伝え方の工夫

 ある子どもも初めはそれで良いと作っていましたが、だんだん自分のイメージしていた恐竜とは違う形になっていったため「違う、そうじゃない」「全然違う」と何度も何度も友達に伝えていました。

 その子は、いつも自分のイメージがうまく伝わらないと「もうやらない」と違うところに行き、1人で別のことをしている子でした。しかし、今回は何度も伝えようとしていたのでびっくりしました。

 何度伝えても友達にはうまく伝わっていなかったので、保育者が「何が違うのかがみんな分からないみたいだよ」と伝えると、さっと粘土を取りに行き何かを作り始めました。私は「もうやめたのかな」と思っていると、しばらくして粘土で作った恐竜を持ってきました。

 そこにあまり言葉はなく、「これ」と渡してきたので「これ恐竜?」と聞くと、「これが作りたい」と言いました。そこで「そういうことだったのか!!」と気がつき、みんなに「こんな恐竜を大きいので作りたかったんだって」と伝えると、みんなも「ああ!」という反応をしてくれました。

そこで自然と、粘土で作った子どもに対して「〇〇、これでいい?」と聞きながら一緒に作ってくれる姿がありました。

 この場面を見て自分も恐竜作りに参加したいという思いから、どうやったらみんなに伝わるのかを考え、自分なりの表現で伝えようとしたのかなと思うと、これは本当の意味で主体的に意欲的に取り組む活動に繋がったのではないかなと思いました。

子どもたちを育てるいろいろな出来事

  子どもたちの興味があることをとことん掘り下げていく活動は、「好きなことしかできないようになるのではないか」「出来ることと出来ないことが偏るのはないか」と思う方もいるのかなと思います。

 私も、正直はじめはそう思っていました。しかし、実際に子どもたちとこの3週間を過ごしてみると、今までに見たことがないくらい没頭して物を作り続ける姿や、友達とコミュニケーションを取りながら完成に向けてがんばる姿、そんな姿を見て不安は全くなくなりました。

 むしろ苦手な分野のことにも「完成したいからやってみよう」と、子どもたちなりに前向きに取り組めているように感じました。

 自分がやりたいことをとことんやることによって自信がついたり、そこに必要なことがあったら「苦手だ」と思う前に作ってみようとしたり考えたりする子どもたちの姿を見て、このプロジェクト活動での保育が注目されている理由が分かったような気がしました。

 私自身、この活動をしている期間は「明日はどんなことが起きるんだろう」とワクワクする気持ちが毎日ありました。そして、子どもたちの「今日は何する?」と聞いてくる姿もワクワクしているように感じました。

 この活動はこれからも続けていきたい、子どもたちにとっても保育者にとっても有意義な時間になるものではないかと思います。