「送迎バスの一コマ」

「送迎バスの一コマ」       ある日の荒尾第一幼稚園  1 

新バス運転手

 今年の春、いつものように送迎バスで子どもたちを送り返していた時のこと。

 先生が子どもを保護者の元へ連れていく間、車内は子どもと私だけになる。残りの子どもは一人。今はもう卒園していった子どもだ。何気なく後ろを見ると、その子と目があった。

「あやとりできる?」

 彼は手元で毛糸を弄びながら尋ねてきた。子どもたちとの会話はいつも唐突だ。

 あやとり、私も彼と同じくらい幼かった頃は夢中になってやっていた記憶がある。今もできるだろうか、あやとりにはどんな技があっただろうか。

 ……何も思い出せない、すっかり忘れてしまっている。

「いや、できないなあ」

 私は彼に言った。彼は手元の毛糸を器用に操りながら言った。

「じゃあ何ならできるの?」

 私はひどくうろたえた。新しく雇ったバイトが人並みはずれてダメだった時に店長が言うようなセリフだ。そんなナイフのようなセリフが子どもから出てきてひどくうろたえてしまったのだ。

 いや、彼には私を言葉のナイフで傷つけようなんてつもりがないことはわかっている。純粋に、何ができるのか聞きたかったのだろう。

「運転とか、できるよ」

 少し悩んで私の口から出た言葉はそれだった。当たり前だ。今こうしてバスの運転手をしている。彼も、見ればわかると言った顔をしている。失敗だった。他のことを言うべきだった。何か尊敬されるような、きらびやかな特技を。

 少し呆れたような顔で、彼は言った。

「それしかできないの?」

 私はひどくうろたえてしまった。

 そうこうしているうちに先生がバスへ帰ってきた。彼は私から興味を失い、先生と何か話している。

 正解はなんだったのだろうか。なんと答えるのが正しかったのだろうか。今でもその時のことを思い出して考え込んでしまう。